高校三年生…18歳の秋…出会いの0(ゼロ)

3/5
427人が本棚に入れています
本棚に追加
/683ページ
えぇっと……ここか!? ある日曜日、私は制服姿で会社って言うか 工場の前に立っていた。 いつも制服着崩して着ているから 久しぶりにきちんと標準服なのは なんかこそばゆい。 そして気持ち悪い。 そこは、まるで大きな白い要塞。 そんな印象を初めて受けた。 九月下旬の就職試験以来だ 今日で二度目の訪問になる。 秋季実業団の大会がこの入社予定の会社。 P○○ー○○es㈱Mother・Factory つまり、メインの製造工場。 その中にある体育館で開催されている。 「どんな感じなのか?山口さん 自分自身の目で見て欲しい」 スカウトした人に言われたんで ここに来ているわけだ。 その白い要塞の正面玄関から、 手書きの案内の矢印に導かれ 東館屋上体育館に着くと…… 「○○女子高等学校の山口響(やまぐちきょう )さんね」 スーツ姿の三十代の女性が声かけてきた 「はい」 「あなたを案内するように頼まれてるわ」 「お願いします」 なんか緊張すると言うか、なんで初対面で 私が「山口響」と知ってるのか? それを聞いたら、私が着ているこの制服 ちょっと宝塚歌劇団の制服の形に似てる 特徴がある制服 襟なしのブレザーの色は黒に近い紺で 左腕に秋桜配置した校章 スカートは珍しいフレアスカート 「森英恵…デザインだってね この辺の高校にはないもん」 って、その女性は微笑んだ。 ありゃ有名なのね。 「あなた久しぶりの女子よ よかったっ!本当に入ってくるのね!」 この人は山木英美(やまきひでみ)さん 旦那さまも剣道部で後々お世話になるひとりだ。 「今個人戦が始まってるの」 体育館に入るとすごい熱気と歓声。 私から見たらすごく大人が、会社名背負って燃えている。 学生の剣道よりなんか楽しく感じる。 「学生時代と違って、趣味みたいな感じだから本当に気楽なの 実業団って言ってもねっ♡」 中に入ってあるコートに案内される。 「ちょうど今年の春と最近中途採用で入った 新人君達が試合中なの」 そう山木さんが言った。 P○○ー○○es㈱は白生成の道着と袴 左袖と腰板に… 「天」「風」「火」「水」「地」 「天」はただ一人だけしか許されてない。 それは小六ん時に何かの大会を 剣友西村と見に行った時と変わらないけど 誰……だったかな?「天」を背負うの? 私は知ってるはず。 小六の時にあのユニフォーム見てる。 小五の夏からの記憶…所々に 紗がかかってしまってはっきりしない そこから急に差し込まれる小六のうっすらとした記憶。 ええっと……。 「メェェーーーンッヤァッ!」 パァァァンと乾いた小気味いい音と、キィィィンと響く面金の金属音。 ハッとして、そちらを見た時、 生成色の袴をひるがえし長身の 一人の男子が豪快に面を決めた。 垂れのネーム「長瀬」そう刺繍されてる な...が....せ そう読めた。 なんか見てて爽やかな剣道……って言うか好きなタイプの剣道だ。 豪快でなんだか爽やかで。 「なんか久しぶりのたくさんの男の人で 驚いてるのかな?」 長瀬さんの試合を魅入ってる私に 山木さんが声をかけてきた。 .「そうかも知れません!」 試合なんてたくさんこなしてるから 別に男子見るのは久しぶりじゃない。 ただ、長瀬さん見て…不思議な感覚。 なんだか胸の奥が熱い! 左袖の「火」の刺繍…が剣風にぴったり。 「山木さんおつかれさまです」 振り向くとどっかで見た事ある 俳優張りの男の人がいた 見た事あるようなないような? えぇっと……。 「お疲れ様、来年度の新人に試合見せてるの 男の子の方はちょっと来れなかったのよね 城島くんと言ったかな? S高の男の子、ほら堺君の後輩の だからもうひとりのこの子案内してるの 山口さん こちらはウチのエースの(いぬい )くん」 「乾くん」そう呼ばれた人…… やっぱり見たことあるようなないような いやいや……あるけど、あるはずなんだけど。 『天』の刺繍が左袖にされてる。 この人に確かに会っている。 けどなんだか曖昧だ。 この人なのか?『天』の刺繍の人。 あれから6年経ってるしあの日見た人では無いかもしれない。 ごちゃごちゃと記憶が曖昧過ぎて 「はじめまして」 なんて言ってしまった そしたら、乾さんは眉を顰め 「……じゃないよ お前が小学生の時稽古したし 遊んだりしたじゃないか?」 なんて言うけど、小学生の頃なんかイマイチ 覚えてませんよ。 そう言ったら 「もう六年になるのか? 最後に会ったの ……まさか覚えてくれてないのか? 約束した事もあるのに」 約束? え?何という私の答えに、乾さんは なんだか寂しそうな顔をした気がした。 その横では長瀬さんが追撃をかけていた。 そして……さらに相手の面へ飛び込み 一本を決めた。 真っ赤なタスキと同じ真っ赤な旗が三本上がった。 さっきまで寂しそうな顔をみせた乾さんも 「よしっ!」と右手を握りしめていた。 「じゃ山口さんメインの女子の試合 見に行きましょう 面白いわよ」 山木さんが長瀬さんの試合終わったとこで 声をかけてきた。 「ハイ!」 私は乾さんに一礼して 山木さんのあとを追いかけた。
/683ページ

最初のコメントを投稿しよう!