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宴の最中。
妖魔大王は一人大広間を抜け出し、大王の間の横にある自室へと戻っていた。
大王はベッドに腰かけると、サイドテーブルの上の写真を手に取った。
「父上、母上。申し訳ありません。私は妖魔帝国の長年にわたる悲願を、達成する事は出来ませんでした。」
写真立てには幼き頃の妖魔大王を中心に左右に両親が映っている。
写真の右側には妖魔大王と手を繋ぎ、優しい微笑みをたたえた女性が立っている。
その額から生える一本の角が無ければ人間と見間違うであろう。
前妖魔王妃。すべての妖魔国民から愛された素晴らしい女性であった。
――あなたは優しい子。あなたなら妖魔帝国の本当の悲願を叶えられるかもしれない
今でも母上の最後の言葉をはっきりと思い出します。
妖魔帝国の本当の悲願とは何だったのでしょうか。
やはり世界征服だったのでしょうか。
写真の左側には前妖魔大王である父親が見える。とは言え巨大すぎて、ごつごつした岩の様な、つま先しか映っていないのだが。
身体も巨大だったが、考え方や懐の深さ、何もかもが巨大な大王だった。
――お前はもっと大局的に物事を見なければならんな
はい、父上。
私はまだまだ父上の様にはなれないようです。
どうかこれからの妖魔帝国の行く末にお導きを。
妖魔大王は写真立てを元の場所に戻すと、ベッドから立ち上がり部屋を出る。
すると部屋を出たところでばったりと暗黒騎士と出会った。
「あ! 大王様探してたんスよ。今から「味一」に、食べにいかないッスか?」
暗黒騎士が妖魔大王に声を掛ける。
「味一」とは地上にある行きつけの中華料理屋だ。
全国展開をしており、ラーメンをメインに各種中華料理を食べる事が出来る。
安さがウリで24時間営業もしている。
妖魔大王はしばし考える。
(もう夜十時を回っているはず。こんな時間に大王を飯に誘うとは……。前から思っていたが、こいつにはハッキリ言わねばならぬな)
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