第6話 味一

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第6話 味一

 暗黒騎士が一匹のサードウルフの前に行き、しゃがみこむ。 「おーよしよし。お手」  すっと右手を差し出す。  警戒心は0である。 「グルルル」  サードウルフは唸りながらゆっくりと近づいてくると、スンスンと右手の臭いをかぎ、そのままがぶりと噛みついた。 「ぎゃーっ!」 「あはは。何やってんの」 と、妖魔大王の背後に忍び寄った一匹のサードウルフが、尻に噛みつく。 「あいたーっ!!」  妖魔大王が叫ぶ。  二人の悲鳴を機に、一斉に襲い掛かるサードウルフの群れ。    サードウルフは一匹での戦闘力は大したことは無いが、群れでの戦闘力は高く、大型の魔物をしとめる事すらある。  既に二人はサードウルフの群れに噛み付かれ、今や姿はほとんど見えない。  が、二人は倒れてはいない。  直立不動のままである。 「いい加減にしなさい……」  妖魔大王からわずかに滲み出す妖気。 「もーっ! お座りっ!」  妖魔大王が少しだけ強い口調で声を発した。  その瞬間、すべてのサードウルフが二人から牙を放し、行儀よくお座りをした。  耳はぺたんと垂れ、尻尾を股の間に巻き込んでいる。
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