第6話 味一

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「もうー」 「大王様、大人げないッス。飽きるまで噛ませてやればいいんスよ」 「お前はム〇ゴロウさんか」  大王はお気に入りにTシャツが汚れていないかチェックしている。  妖気でカバーしていたので穴こそ開いていないが、よだれでべたべたである。 「あーあー。これは奪衣婆に怒られるかなー」  奪衣婆とは妖魔帝国の洗濯部門の責任長を務めるお婆さんだ。  元々は三途の川で亡者の衣服をはぎ取っていたのだが、その衣服の回収力の高さに妖魔大王が目をつけ、地獄からわざわざスカウトしてきたのである。  妖魔達の中には着替えを面倒くさがる者も多い。 「洗濯物の下に入れちゃえばわからないッスよ」 「そーだなー」  顔を見合わせて、いひひと笑う妖魔大王と暗黒騎士であった。 ◆ 「よしっ!」  妖魔大王はまだお座りを続けているサードウルフに対して命令をする。  お座りから解放されたサードウルフ達は、尻尾を振って妖魔大王の周りに群がってきた。 「よしよし。お前らもう人間を襲うんじゃないぞ。」  妖魔大王はひとしきりサードウルフ達の頭を撫でてやると、次の命令を出す。 「ハウス」  サードウルフ達は「くーん」と鳴くと、名残惜しそうに草原の中へと消えていった。 「可愛いッスねー」 「噛み付かなきゃなー」 「いや、それはエゴッスよ」 「えっ!?」  ドキリとして暗黒騎士を二度見する妖魔大王。  何となく暗黒騎士は物悲しそうな顔をしている。  (聞かなかったことにしておこう……)と思う妖魔大王。 (エゴって何て意味だったッスかね……)と思う暗黒騎士。
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