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その光景を見て妖魔大王はホッと安堵すると、懐から古い手鏡を取り出す。
数百年前に亡くなった母の形見であったが、戦闘の影響なのか、鏡の部分にはいくつもヒビが入っている。
右隅にわずかに残っている、あまり割れていない部分で、何とか自分の顔を確認する。
三つの目全てに、丸い青あざが綺麗についている。
そして牙が二本とも折れている事に初めて気づく。
「うう。牙は保険がきかないのに……」
「大王様。角も折れてるッス」
「ええっ! うそっ!?」
慌てて手鏡で自分の頭を確認する。
「本当だ……」
鏡で確認しただけでは納得が出来ず、頭を触って確認する妖魔大王。
「あいつら絶対わざとッス。八本全部折れるなんてありえないッス」
そう言いながら、先程から妖魔大王と会話をしていた人物がゆっくりと起き上がってきた。
漆黒の鎧に身を包んだ、妖魔帝国三大幹部の一人「暗黒騎士」である。
しかし今では元の鎧の形が分からなくなるくらいにボコボコにされている。
「お前もだいぶひどいな」
「大王様ほどじゃ無いッス」
暗黒騎士は玉座の側までよろよろと歩いてくると、「失礼するッス」と倒れる様に床に座りこむ。
既に体力は限界だった様だ。
膝をかかえて体育座りをしている。
「しかし魔法少女ってあんなに強いのか? たった三人なのにえげつない強さだな」
「ぱねぇッス。正直、俺引いたッス」
暗黒騎士は根元から折れた愛用の魔剣エネギリウスを眺める。
折られたのではない。
折れたのだ。
魔法少女の肩口に魔剣を振り下ろしたら、当たった瞬間にポキンと根元から折れたのだ。
「何よ」
と言って拳を握る、赤の魔法少女「綾酉 きらら」の顔が最後に残っている記憶である。
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