31人が本棚に入れています
本棚に追加
――カウント1
(ここが引き際であろうな)
妖魔大王は静かに決意を固める。
そして、力強く玉座より立ち上がると、眼下にいる妖魔達を見渡した。
そこには無傷な者等、誰一人いない。
その光景に心を痛め、三つの目を閉じる妖魔大王。
(皆すまなかったな。一時の復讐心に流され、敵の戦力を見誤り、挙句民を傷つけてしまった愚かな王を許してくれ)
そして全ての目を静かに開くと、ゆっくりと言葉を発した。
「皆の者、心して聴け」
地の底から響いてくるような低く重い声。
先程までの弱り切った妖魔大王はそこにはいない。
堂々たる立ち振る舞いは大王と呼ぶにふさわしい威厳と貫禄に満ちていた。
三大幹部をはじめ、何千といる妖魔達が一斉にひざまずく。
「皆の者、今日まで本当によくやってくれた。礼を言おう。」
そういうと妖魔大王は皆に頭を下げた。
ほんの一瞬だが妖魔達の間に動揺が広がる。
妖魔大王が公に頭を下げる事など滅多に無い事だ。
妖魔大王は頭をあげると、意を決したような声で皆に告げた。
「遺憾ではあるが、本日をもって地上征服作戦は終了とする。各自速やかに撤収作業に移れ」
「ははっ!!!」
妖魔達の一糸乱れぬ返答。
妖魔大王は心から満足する。
「それとだ」
大王の次の言葉を聞き漏らすまいと耳を傾ける妖魔達。
忠誠心が形となって表れ、大王の間は痛いほどの静寂に包まれる。
そんな妖魔達を眺め、妖魔大王はニヤリと笑い、次の言葉を告げた。
「宴の準備を忘れるな!! 残念会だ!!」
「おおーーーーーっ!!!」
その瞬間、ひざまずく妖魔達から一斉に歓喜の声が沸き上がったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!