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――今年、十四となり、元服を迎えた翡翠(ひすい)は溜息を吐く。
『花送り』の儀式を受けられるのは元服の十四歳から三年間のみ。その三年の間に花を貰えなければ、もう都人になることは出来ず、一生をこの郷で過ごすことになる。
しかし、実際のところ、花送りの儀式とは、賄賂の応酬合戦に過ぎなかった。
やってきた都人に、どれだけたくさんの金銭・品物を積めるか。
その賄賂が多ければ多いほど、花を貰える可能性が高くなる。
と、なれば、翡翠が花を貰えることは、夢にもありえなかった。
翡翠は捨て子である。
蓮峨郷の豪家の一つ、天覧家の館の前に、白い布に包まれた赤子が捨てられていた。それが翡翠である。翡翠を捨てた親は、天覧家は豪家で金持ちであるから、翡翠もきちんと育ててくれると思っていたのであろうか。果たしてそこまで考えてはいなかったのか。
とにもかくにも、天覧家は翡翠を拾いこそしたものの、翡翠を挟むようにして実子二人を抱えており、翡翠の都上がりの為に身銭を切る余裕はまるでないのである。それで心を痛めているようにすら見えない。
正直なところ、翡翠は嫌われている。目の上のたんこぶである。
翡翠が嫌われているのは、翡翠が捨て子であり血縁関係にないから、というだけでなく、恐らくは翡翠が才ある子供だからであろう。
少なくとも、小学に入るまでは親は優しかったと、翡翠は記憶している。
兄の葵入(あおい)を追うように小学に入り、三歳差にも関わらず、すぐに葵入の成績を抜かした。褒めて貰えるかと思ったが、それきり義両親の扱いがみるみる冷たくなったことをよく覚えている。
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