真夜中の散歩者

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 おそるおそる見下ろすと、昨日と同じく中原の部屋の真下に、全く同じ風体の人物が立ち止まって、じっとこっちを見上げている。すっぽり被ったフード、グレーのコート、闇に紛れて見えない真っ黒な顔。我に返った中原は慌てて窓から離れた。 「トリガイモトコサン」「トリガイモトコサン」  再開される連呼、ゆっくりと遠ざかって行く声、再び訪れる静寂。何もかも昨日と同じだったが、中原が眠りにつくのには、昨日よりも時間がかかった。  翌朝。  いつも通り昼過ぎに起床した中原は、何気なく習慣でテレビをつける。昨夜よく眠れなかったせいか、いつにもまして起き抜けの頭はぼーっとしている。  昨日と同じく丁度ニュースをやっている。画面の右上に“大学生ひき逃げで死亡”との見出しが出ている。 「……所持品から、城南大学商学部の学生、鳥飼元子さんと判明しました。警察では、ひき逃げ事件として、現場から逃走した車の行方を……」  (えっ?城南大学商学部?)  いきなり自分の大学名を呼ばれて中原は一気に目が覚めた。学部まで一緒だ。  そして鳥飼元子という名前…… (そうだ、確かにそう言ってた……)  確かに昨夜その名前が連呼されていた。その名前と同名の女性が死んだ。しかも自分と同じ学部の学生である。 (関係ないよな……偶然だよな……)  何度も自分に言い聞かせながら、中原はそそくさとテレビを消した。  その夜。     
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