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真夜中の散歩者
時計は午前零時を回っていた。
23時台のニュース番組も一通り見終わってしまった大学生の中原は、特にすることも無く、ぼーっと巨大なテレビ画面を眺めていた。
現在彼が寝泊まりしているのは、伯父の高級マンションである。既にリタイアして悠々自適の伯父夫婦は、先週豪華客船での世界一周ツアーに出発した。そして夫婦が帰国するまで、留守番を兼ねて中原がこの家に住むことになったのである。学生には分不相応な豪華なマンション生活も最初のうちは良かったが、一週間もすると少々飽きが来始めた。
(特に見たい番組も無いし……もう寝るか)
大きなあくびを一つして、歯磨きをしに洗面所に行こうとした時。
何やら幽かな音が聞こえてきた。
「……サン」「……サン」
テレビを消して耳を澄ませてみる。屋外からのようだ。
「……リョウ……サン」「……ヤマリョウ……サン」
どうも人の声らしい。少しずつ明瞭になってくる。話している人間がこちらの方へ歩いてくるのだろうか。
「……ヤマリョウイチサン」「イサヤマリョウイチサン」
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