化物が怖くて忍者ができるか!

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「ああ、そうだ。ここは菊水城じゃないし、その軟膏もただの打ち身の薬だ」 「この城、雰囲気あるだろ? 昔、初田軍との戦で攻め落とされてから、すっかり廃墟になってるんだ」 不気味だったろ、と先輩は歯を見せて笑った。 「じゃあ、あの鬼やのっぺらぼうも?」 「ああ。鬼は権さん、のっぺらぼうは梅さんの変装だ」 「なんだぁ。俺ぁてっきり、本物の化物が現れたと思って、肝が冷えて冷えて」 「わははは。忍者をやるなら、化物なんぞにいちいち構ってられねえぞ」 「だってこんな真夜中に、あんな不気味なツラが出てくるんですよ」 俺もいつの間にか先輩たちと一緒になって笑っていた。 ああ良かった。全部、先輩たちの仕組んだことだったのか。化物なんか、いなかったんだ。 「じゃああの坊も、誰かの息子さんですか? いくら新人の恒例行事だからって、あんな小さい子を真夜中に連れてくるなんて、ひどい親だ」 「なに言ってる? 子どもなんか、連れてくるわけないだろう」 先輩はきょとんとしていた。 「えっ、だってさっき居たじゃないですか、子どもが」 このくらいの、と手で身長を示してみるが、誰も心当たりがない様子だった。 「俺たちが来たときには居なかったよな」 「近くの村のガキか?」 「近くったって、一番近い村でもこの森を抜けた先だぜ。こんな夜中に気軽に来られる距離じゃない」 ざわつく先輩たちをみているうち、俺は手首がズキズキと痛むことに気づいた。 手甲をとって、手首を月明かりに照らしてみた。 ひいっ! 手首には、子どもの指の形どおりにどす黒い痣ができていた。 胸が、早鐘のようにドクドクと鳴り始める。冷や汗が吹き出し、背中を垂れた。 ふと顔を上げると、賑やかに騒ぐ先輩たちの後ろに、その子が立っていた。 俺と目を合わせると、にっこり笑って言った。 「おじちゃん、一緒に来てよ」 「ぎっ、ぎやぁあああぁああぁあ!」
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