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「ひええっ、お助けぇ」
頭をかかえこみ、なんまんだぶ、なんまんだぶと必死で経を唱える。
亡霊たちは経におののいて次々と逃げ出し……はせず、むしろ増えていく。
なんだよ、この経! ちっとも効かねえ。こんなことなら田舎のばあちゃんに、もっとちゃんとした経、習っとくんだった。
俺が涙目になりながら後悔してると、上から「ふっ、ははははっ」と笑い声が降ってきた。
こいつ、俺がビビってるの見て面白がってやがる。
くやしいが、怖すぎて武者をぶちのめすこともできない。
俺が床をにらんでじっと耐えているうちに、笑いは落ち武者たちに次々と伝染していった。俺の周り一帯が、宴会のさなかのような賑やかな様子になってきた。
「まだ分からんか。俺だ俺」
武者の一人が兜をとる。月明かりに照らされたその顔を見上げて、俺はあっけにとられた。
「あっ、喜兵衛さん」
眼の前の武者は、今回の任務に際して、城の見取り図や膏薬のありかを事細かく教えてくれた喜兵衛さんだった。
後ろの武者も続々と兜をとって笑顔を見せる。みんな忍者隊の先輩たちだ。
「いやあ、愉快愉快」
「新入り、おまえ怯えすぎだ。そんなんじゃ、忍者としてやっていけんぞ」
「えっ、えっ。これは一体、どういうことですか?」
状況がのみこめない。
「なあに、恒例行事さ。新人が入るといつもこうして脅かして、忍者としてふさわしい肝がすわってる奴かどうか試してやるんだ」
「お前ほど泣き叫ぶやつは珍しいがな」
その一言で、俺以外の全員がどっと沸き立つ。
「えっ、じゃあ今回の任務は、肝試し用の嘘っぱちってことですか?」
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