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バタタッ、という音に飛びあがりそうになった身体を、俺はなんとか押しとどめた。
硬直したまま耳をそばだてる。
しばらくして遠くの方でまたバタタッと音がした。遅れてチュウと鳴き声。
なんだ、ねずみか。おどかすない。
いや別に、ビビってないけど。ビビるわけないけど。
誰もいないのに妙に恥ずかしくなって、心の中で言い訳をした。
もういちど前方に手を伸ばす。手探りで天井板と梁の場所を確認し、そのすき間に身体を滑り込ませるようにして這っていく。
慎重に、慎重に。天井板をきしませないように。狭い空間で頭をぶつけて物音を立てないように。
思ったより時間がかかっちまっているが、まあ初めての任務だし、こんなもんだろう。
大体、条件が悪すぎるんだ。
この天井裏。こんなに梁があちこち伸びてちゃ、真っ昼間に来たってなかなか進めやしないさ。それなのに、今は真夜中だぜ? 月明かりも差し込まないこんな真っ暗闇じゃ、文字通り手探りで進むっきゃない。
時間がかかるのは、俺のせいじゃない。この天井裏と、この時間帯を指定した喜兵衛さんのせいだ。
喜兵衛さんのヘラヘラした顔を思い出す。
「忍者が忍び込むといったら夜に決まってるだろ。大丈夫だって、そんなに難しくないから」
そう言っていたあの人をぶん殴ってやりたい。
ああ確かに、難しくはない。そうさ、俺ほどの実力のある男にとっちゃ、決して難しくはない。ただ時間がかかるのと、真っ暗すぎて不気味なだけだ。
それにしても、夜の天井裏がこんなに暗いとは思わなかったな。油断すると前後も分からなくなりそうだ。それに、何か出てきそうな……。
嫌な想像をしてしまい、俺は頭をブンブン振って邪念を追い払った。
暗闇や化物を怖がっていて、忍者が務まるかってんだ。
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