化物が怖くて忍者ができるか!

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ここは、どのあたりだろう。 俺は出がけに喜兵衛さんに見せてもらった見取り図を思い浮かべた。 進む方向を間違えていなければ、そろそろのはずだ。 狭い天井裏で、少しだけ頭をもたげて辺りを見回してみる。先の方にうっすら光が漏れている場所があった。 あそこかな。 急いで、けれど物音を立てないように細心の注意を払いながら這い寄った。 近寄ってみると、光は、天井板のわずかな隙間から漏れていた。 俺はその隙間に片目を押し付けて、下を覗き込んでみた。 誰かいるな。 狭い視界の隅に人影が見えた。墨染の衣をまとっている。 天井裏の埃っぽい空気に混じって、かすかに薬の臭いもただよってきた。 きっとここが目的の場所、菊水城の殿に仕える侍医の部屋だろう。 こんな真夜中だというのに、侍医は座って何か作業をしているようだった。ちっとも動かない。 けれど、しばらくすると「ううん」とうなって身体をひねりはじめた。 ボキバキボキッ。 動きに合わせて関節がすごい音をたてる。 侍医は腰をひねり、腕を回すと「よっこらせ」とつぶやいて立ち上がった。天井板の隙間から見えなくなる。襖を開け閉めする音がして、足音が遠ざかった。 (かわや)にでも行ったのか。よし、いまだ。 俺は天井板をそっと外し、物音ひとつ立てずに華麗にシュタッと降り立つ……はずだったのだが、ドテっと落ちてしまった。 まあ初めての任務だから、こんなもんだろう。誰にも見られていないし。問題ない。 したたかに打ったアゴをさすって立ち上がると、俺は眼前にそびえ立つものを見据えた。 その部屋の壁一面は巨大な薬箪笥(くすりだんす)で占められていた。
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