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今回の、俺の忍者デビューとなる初めての任務は、菊水城に忍び込み「狐狸黄膏」という秘薬を盗んでくることだった。
いつもは喜兵衛さんたち先輩忍者が担当している任務だが、この俺が、この将来有望すぎる大型新人な俺が、さっそく仕事を取ってしまう形になった。
悪いな、先輩方。でも忍者の世界は実力勝負。優秀なやつに仕事が集まるものなんだぜ。
俺はまよわず薬箪笥の右から7番目、上から2番めの引き出しをあけた。
巨大な薬箪笥には、小さな引き出しが数えきれないくらい備わっている。もし事前に喜兵衛さんに聞いていなかったら、ひとつひとつ引き出しを探して日が暮れる、おっと違った、夜が明けてしまうところだ。
あけた引き出しの中には、これまた聞いていたとおり、狐と狸の絵がついた陶器の壺が入っていた。
俺は壺を取り出すと、蓋をあけた。
ふーん。これが秘薬、「狐狸黄膏」か。
壺の中には、黄色がかった軟膏がいっぱいに入っていた。秘薬なんて言うが、見た目はただの軟膏と変わらない。
俺は「狐狸黄膏」の表面をヘラですくうと、懐から取り出した小ぶりの容器に詰めた。
トロリとした軟膏が、容器の縁に少しこぼれた。
俺はこぼれた分を袖で拭き取ろうとして、やめた。
かわりに指でふきとると、その指を自分の額、髪の生え際にこすりつけてみた。
この「狐狸黄膏」は、薄毛に大変よく効く妙薬なのだそうだ。
塗ったかんじは、普通の軟膏と大して変わらない。
うちの殿は、わざわざ敵対する菊水城から盗み出させてまで、この軟膏を毎日使っていると聞いた。でも、あの薄っすらした髪を見るに、あまり効き目はないんじゃないか。それとも、効果があって、やっとあの程度なのか。
そんなことを考えていたせいで、部屋に入ってくる人間の気配を見逃してしまった。
気づけば、首につきつけられたヒヤリとする刃物の感触に、俺は動けなくなっていた。
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