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鬼? なんで? 菊水城では、鬼を飼っているのか?
信じられない事態に頭が追いつかず、呆然と立ちつくす。そんな俺を見返していた鬼は、ゆっくりと小刀を振りかざした。
それを見て、俺はハッと我に返った。
逃げないと! 殺される!
「ひえええっ」
俺は近くにあった座布団を鬼に投げつけると、襖を蹴破って廊下に出た。
こんなときのためにシュタタタと走り去る練習は何度もしていたけれど、それをいま実践している余裕はない。
ドタバタと足音を響かせて暗い廊下を全力で走った。
「うおおおー!」
閉じた障子の向こうを鬼が走り抜けていく。
うまくやり過ごせたみたいだな。
俺は静かに、長く息を吐いた。緊張がとけて、涙がにじみ出てきた。
もういやだ、こんなところ。早く帰ろう。
でも、帰ろうとしてこの部屋を出て、また鬼に見つかったら、もっと嫌だ。
ここでおとなしく朝が来るまで待っていようか。
そう考えて、俺は部屋を見回してみた。
そこは女の部屋のようだった。それも、身分の高い女の。
隅に置かれた鏡台やタライに可憐な装飾が施されているのが、障子を通して差し込む薄明かりの中でも分かった。
そういえば、空気すら、高価そうな香の匂いをまとっている。
部屋の真ん中のついたてに、俺の目はすいよせられた。
思わず鼻をフンフン鳴らす。香とは違う、若い女の甘い匂いがした。思わず頬がゆるむ。
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