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この向こうに、かわいいお姫様か、きれいな北の方様が眠っているんだな。
ちょっと、ちょっとだけ。
ついたてに手をかけて向こうを覗いてみた。
すぐそばに、こんもりとした布団の盛り上がりがあった。寝顔を探して視線を動かすと、布団の端から長い髪だけが出ていた。どうやら、頭の先まですっぽり潜っているようだ。
なにもしない。ほんの一瞬、ちらっとお顔を見るだけだ。
俺はついたてを回って布団に近づいた。
女を起こさないように、そうっと布団をつまんで顔からずらす。
「……!」
あやうく叫びそうになった俺は、すんでのところで口をおさえた。
布団の下の女には、顔がなかった。
の、のっぺらぼうだ!
身体がこわばる。逃げよう、と思うのに足が上がらない。腰を抜かさないだけで精一杯だ。
女から目を離せないまま、ズリズリとすり足で後ずさる。
すけべ心を出して、とんでもねえことしちまった。起きるなよ、起きてくれるなよ。
気づかれる前に、早くここからずらからねえと。
そう決心した瞬間だった。
突然、布団が跳ね上げられたかと思うと、女が俺の片足をつかんだ。
「ぎえぇえぇぇえ!」
無我夢中で足を振り回す。
けれど、のっぺらぼうは女とは思えない力で俺の足首をつかんだまま離さない。
俺は自由なほうの足で、めったやたらに女の手を踏みつけた。
やっと手が離れ、すかさず部屋の外へ駆け出そうと、俺が踵をかえしたときだった。
ドスン。
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