化物が怖くて忍者ができるか!

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重たい衝撃とともに、前のめりに押し倒される。床に突っ伏した俺の頬を、長い髪がなでた。さっき嗅いだ若い女の匂いが俺をつつみこむ。 「ひええっ」 必死にもがくけれど、女は俺をがっちり捉えて逃さない。そのうえ、俺の首に両手をかけてきた。 殺される! しゃにむに構わずその手を振り払い、振り払い、腹をけとばす。 のっぺらぼうがひるんだスキに、俺は弾かれたように逃げ出した。 もうたくさんだ。こんなところ、こりごりだ。 狐狸黄膏(こりおうこう)は懐にある。さっさと逃げ出して城に帰ろう。 眼の前の(ふすま)を開けて、その向こうの襖も開けて、さらに開けて、ひたすら走る。 もう忍ぶどころじゃない。 この城の全員が起きてきても不思議じゃないくらいドタバタと走り回る。 出くわす部屋という部屋ぜんぶを突っ切って逃げ回る。 それなのに、妙なことにどの部屋にも人の姿がなかった。 こんな大きな城なのに、なんで誰も居ねえんだ……! いやな予感がして、腹の底がキュッと絞られるように痛み始めた。 それでも走り続ける。立ち止まるほうが、よっぽど怖い。 がむしゃらに進んでいると、縁側に出た。 月が明るく輝いていて、それだけでほっとした。自分も照らされているだけで安全だという気がした。 おまけに、狭い庭のむこうに城の塀と、外の森が見えた。 やった。あの塀さえ越えれば外だ! 「おじちゃん、何してるの」 「ぎゃあっ」 心臓がとまるかと思った。 反射的に飛びのいて振り向くと、そこに居たのは小さな子供だった。
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