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「本当に、きみは最後まできみのままだね」
北原様は呆れを含んだ声で言った。
「そりゃそうですよぅ、北原様が北原様であるのと同じくらい、俺は俺です!」
と元気良く俺が答えると、北原様ははんっと鼻で笑ってみせる。
「でも、大学では少しそのふざけた態度を改めた方が良いよ。あと、間違ってももう髪を青く染めたりしないように。そしたらまぁ、その内彼女も出来るんじゃない? きみ、口は巧いんだし。何たって親衛隊隊長の僕をやりこめたくらいなんだから」
「イェーイ! 北原様のお墨付き戴きましたァ!」
と声高々に叫び立ち上がると、北原様に「いい加減にしろ、近所迷惑」と一喝された。確かに、いくら退寮の時期で人が少なくなっているとはいえ騒ぎ過ぎたかもしれない。俺はとても素直に「すみません!」と答えてソファに腰を下ろした。
その後は十分程なんてことのないお喋りをして、北原様も明日退寮で大変だろうし、俺もまだまだ退寮の準備があるということでお暇することにした。
部屋を去り、扉を閉めようとしたまさにその時。
「時田くん」
「はい?」
北原様に呼び止められ、振り返る。と、額に何か、柔らかいものが触れた。
「それじゃ、さよなら」
俺が何か返すのを待つことなく、北原様は部屋の扉を閉ざす。
額に、キス、された。いつかの風邪の日のように。
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