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「いえ、そんな事は」
「嘘は吐かなくてよいぞ」
私は何とも言えない顔をした。それに構わずに僧侶は続けた。
「それにこの仏様を無縁仏の墓地に埋めなきゃいけないからそんな暇は無いんだけどな」
「身寄り、無かったんですか大兄さん」
「おいおい、君らだって似たようなものだろ。あの茶屋で身元が保証されているのは歌舞伎役者ぐらいのものさ」
「はい、私も村を滅ぼされております」
「そうか、初めてのご縁として君を身受けしてやりたいのだが、君が仏門に入る事が許されるか分からないし、入れたとして状況的には今と変わらないだろう。変わるとしたら髪があるか無いかだけで私達のような人間の慰み者になることに変わりは無い。剃られない場合もあるがな」
「村を滅ぼされ、家族を殺されたところで神様も仏様も信じる事はやめています」
「私も神仏に対して何度も語りかけてはいるが一度も返事が返ってきた事は無いねぇ」
「返事が無いのに語りかけるんですか」
「それが我々坊主の勤めだからね。このおかげで君たちを買えるとも言える」
この生臭坊主が。私は心の中でそう呟いた。
「生臭坊主とでも思ったかね?」
「い、いえ」
心を読まれた私は心底焦った。
「いや、良いんだ。今いる坊主は皆仏にも死者にも届きもせぬ念仏を読み上げて民から金むしり取るだけの破戒僧と変わらんよ」
「そ、そんな事は」
「拙僧は近江の有名な寺の宗派でね、父は山から下りては飲む打つ買うをしていたそこの坊主だったのだよ。その寺は皆が皆このような破戒僧で権力すら恐れないものどもで武力すら持つようになっていた。その結果として時の権力者に山ごと焼かれたそうだ。その破戒僧に買われた母から聞いた話に過ぎないがね。私はその破戒僧の血を引いているのだからこの辺りの事は割り切って行きていく事にしてるよ」
父の代から続く破戒僧か。野獣のように私を貪り食らった初めての事を考えると当然であった。
「つまらぬ話をしたな」
「いえ……」
「君もこうならぬよう、畳の上で安らかに苦しまずに年をとって死ねるように祈りなさい」
「誰に祈ればいいのでしょうか」
「何も答えてくれぬ神や仏しかいないんじゃないかな」
僧侶はこう言うと河原から去って行った。去り際にこちらに向かって軽く手を振った。私もこれを見て踵を返し、牢獄とも言える陰間茶屋に戻るのだった。
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