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伊勢参りより数日後、私は仕事に復帰した。久しぶりの仕事はやっぱり床入りだった。男にも女にも慣れていない一見さんであった。この手の客は口と尻で一回ずつ出してやれば満足する。こうしていつもの様に床入りをこなした後、番頭が次の客の説明をしに来た。
「次の客は国松チャンお気に入りの川喜田様だよ、尻よく洗っときな」
こう言われて私は風呂場で一見さんの客の子種を掻き出した。
「綺麗に、しとかないと」
私は今か今かと水仙の間で川喜田を待っていた。水仙の大きく描かれた襖がゆっくりと空いた。そこに居たのは川喜田ともうひとり。今までに会ったことの無い男だった。
私は誰だろうこの人と心の中で呟いた。
「やあ、今日は拙者の相手じゃなくて上役の相手をして欲しいのだ」
「川喜田くんが懇意にしている陰間がいると聞いてね。これは是非にお相手をしないいかんと思ってね。今日来た次第だよ」
上役の男は私の頭を優しく撫でた。
「ああ、儂は黒川政之進(くろかわ まさのしん)だ、今日は宜しく頼むよ」
川喜田は襖の前で訝しげな顔をしながら睦み合う私と黒川を眺めていた。
そのまま川喜田の方を見ると奥歯を噛み締めながら目線を絡み合う二人から逸らしているのが見えた。黒川はそんな川喜田に気がついた。
「川喜田ァ! お前のお気に入りが必死になって違う男と睦みおうとるのを目を逸らすことは許さんぞ!」
黒川は大きな声で怒鳴った。その声は隣の百日紅の間にまで聞こえるぐらいの大声だった。この大声にビクッとなった川喜田は二人を注視することになった。
「どうだね川喜田くん、君のお気に入りはこうしてよがっておるぞ。どう思うかね」
川喜田はそう言われて目を閉じて首を背けた。
「目を見開いてしっかりと見ぬか!」
黒川は再び川喜田を怒鳴りつけた。川喜田はゆっくりとこちらを見た。私は川喜田と目が合う。
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