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「あの時の剣客隊の名簿だ。汚れ仕事ではあるが剣客を募ったのでな」
その傘連判状を見ると確かに川喜田の名前があった。
「川喜田は剣術指南役にどうしてもなりたがったが実績が無くてな、この太平の世で剣術道場の小倅が実績を上げるのは難しいこと。だからこのような汚れ仕事に志願しおった。全く、腐れ外道にも劣る畜生のような事をしてまで地位が欲しいのかのう」
「……」
何も言えなかった。
「それに川喜田が人買いよりお主の事を聞いたのはお主が茶屋に入ってから程なくと来ておる、それが何を意味するかわかるな?」
「私を初めて指名した段階ですでに私の身を知っていた?」
「そうなるな、人を殺す割には気が小さいのかあの村の生き残りについて調べさせておったらしい。それであの人買いが調査をしていたら浮上してきたのだよ。あの人買いは滅びた場所で子供を探す蛭以下の外道として有名だったからな」
「それで、私にこんな話をしてどうしろと言うのですか」
黒川は懐より小刀を出してこちらに放り投げた。
「関の街にて打ち出した名刀だ、小さいながらも切れ味は抜群だ」
「まさか川喜田様を斬れと」
「許せぬだろう、恨んでいるだろう」
「しかし私に人を殺めるなどと大それた事は出来ません。それに川喜田様は剣術指南役…… 返り討ちにおうてしまいます」
「お主ならあの川喜田と心も体も通じおうているからな、大小を枕元に置いて裸になった時にでも刺せばよかろう。母を殺めた相手であれば敵討ちも許される。儂が奉行所に言えばどうとにでもなる」
私は目の前に放り投げられた小刀を眺めた。鞘から抜いてみたら鈍くも怪しい光が目に入ってきた。
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