曼珠沙華の花が今開く

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「国松チャン、今日はお前の川喜田様が来るぞ。店開いてすぐに来るそうだ」 いきなり来た好機であった。将軍が種子島の訓練をあてがわれて剣術の稽古が無くなって暇になったから来ると言う感じであった。どうやら黒川の思い通りに動いているようだった。いつものように「百日紅の間」をあてがわれるかと思ったが、最近、間夫と間夫による陰間の取り合いがあったらしく障子と畳の貼り替えを行う事となり当面の間封鎖される流れとなっていた。何をやったのかは想像に難くない。  そのようなわけでかつて大兄さんが梅毒で亡くなった部屋を改装した「朝顔の間」を使う事となった。朝顔の間は元々はなれの部屋だったので多少騒ぎになっても聞かれる事は少ない。つまりあそこで何があったとしても発見は遅れると言うことだ。人を殺すにはお誂え向きの部屋であった。  私は朝顔の間で布団を敷き、その上で三つ指をつきながら川喜田を待っていた。数刻もせぬ内に色とりどりの朝顔が描かれた襖がゆっくりと開いた。そこに居たのは川喜田であった。 「久しいな」 川喜田は屈託のない笑顔を見せた。黒川よりあの話を聞いた後ではその笑顔も嘘くさく感じるというものであった。 「本日も線香一本分で宜しいでしょうか」 「ああ、頼む」 線香に火をつけると一筋の白い煙が蛇のようにうねうねと曲がりながら立ち上った。これまで数え切れない程見てきた煙ではあるが今日ばかりはそれが不気味に感じていた。 川喜田は布団の上で着物の上衣を脱ぎ、枕元に置いた。更に腰につけた大小をその上に置いた。彼はいつもこうするのだ。これを確認して普段とは違う事を行った。 「最近は枕元にお香を置く事にしてるんですよ。薔薇のお香は近くで嗅いでいるだけで興奮しますし」 「ああ、独眼竜殿は西欧に造詣が深いと言われていたな。それで西欧の薔薇が入ってきたのだったな」 「ええ、両国の四つ目屋さんで珍しく入荷しておりましたので」 「本当にあの店は変わったものばかり仕入れるのう」 「ええ……」
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