曼珠沙華の花が今開く

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私は香炉を置くために枕元に置いてあった上衣と大小を部屋の端にやった。なおかつ、大小の元に一足飛びで行かれぬように私は枕元にちょこんと座った。それを見て川喜田はその真向かい側に座る事になった。これで大小までの距離は離した…… 返り討ちに合う危険性は大分減った。 「そうだ、私、また三味線の腕が上がったのですよ」 「ほう、これは良き話であるな」 「川喜田様に是非お聞かせしたい曲がありまして」 「うむ、しかし三味線を持っていないようだが」 「川喜田様の後ろに葛籠がありましょう、あの中に最近三味線の先生よりお譲り頂いた三味線が入っております。雄の三毛猫の皮を使ったそれはたいそう珍しゅうものだそうです」 「雄の三毛猫は中々見ないと聞くが…… それを惜しげもなく三味線に使うところさぞかしいい音色が出るのであろうな」 川喜田は座ったまま葛籠の方ににじり寄った。蓋を開けて布に包まれた三味線を取り出した。ここまでは狙い通りだ。完璧と言ってもいい。私は肌襦袢の懐の奥に仕舞っておいた小刀を出した。鞘を布団の上にそっと落とし、抜き身となった小刀を正眼の構えで持った。 「国松よ、これで……」 振り向いたら小刀を構えている私を見て川喜田は大層驚いた。持っていた三味線を落とし大きな音がしたがここは離れの部屋故に誰も不審がることは無かった。 「何のつもりだ」 川喜田は驚いた顔から一瞬で神妙な面持ちになった。 「お尋ねしとう事がございます。返答の次第では川喜田様を刺させていただきます」 「もしかして、知ってしまったのか」 「お察しが早うございますね。私の村の事でございます」 「伊勢参りの帰りの時に何も知らぬようであったからこのまま知らずにおればよいものを…… 確かに拙者はあの村の襲撃に参加しておった。こうして幕府の為に実績を上げねば例え祖父の七光りでも剣術指南役という立場にまでなれなかったからな」 私の小刀を持つ手は震えていた。 「何人程斬ったのですか」 「分からぬ、同じく参加しておった者と斬った人数で競い合いをしておったぐらいだからな。男はなまじ体力があるせいかニの太刀、三の太刀が必要になってくる。だから丸腰の女子供ばかりを狙って斬っておった」 「その中に私の母と姉が……」 「知らぬ、余りに斬った人数が多すぎてどこで何人斬ったかなどいちいち覚えてはおれぬ」
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