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「私にこれまでしてくださった優しさは何だったというのですか!」
「あの襲撃以降、もし生き残りがおったらと言う恐怖に襲われてな…… 今の地位の力を使って調べさせた。そうしたら案の定、あの村の近くで人買いが子供を拾ったと言う話を聞いてな。その子供に会いに来たのだ、禍根を絶ち殺す為にな。ところがその子供は痩せて怯きった野良犬のような目で私の体を嘗めてくる…… 殺すのも可哀想になるぐらいにな。そこに来てその子供に出来るだけの償いをしたいとさえ思えるようになっていた。その償いをしている内に本気で愛するようになってしまったがな。始めに身受けは出来ないと言ったのだからさっさと他の金持ちに身受けされれば良かったものを……」
川喜田は天を仰ぎ、ため息をついた。
「さあ、刺しても構わぬぞ。拙者はそなたが八つ裂きにしても足りぬぐらいの仇、奉行所にその旨を言えば仇討ちが認められむしろ誉れとされるだろう」
川喜田は一歩踏み出した。
「どうしたこんな震える手付きでは拙者のような悪党どころか猫一匹も斬れぬぞ。虫のいい話ではあるが苦しみとうない、心の臓を刺して抉り苦しまずに地獄に行きたい」
「斬られ苦しんだ村の民もいるのによくも言えたものですね」
「なんとでも言ってくれ、そなたにはその権利がある」
私はそのまま川喜田の心臓を刺す肚が決まった。後は勢いよく前に出るだけだ。家族の仇、友の仇、村の仇、これが討てる事で涙を流した。頬を伝うその涙は何の涙なのだろうか。その時、私の頭の中に走馬灯が現れた。これまで優しくしてくれた川喜田との思い出が巡りに巡った。これは全て罪悪感からの償いであって本当の優しさじゃない。気にする事無く刺せばよい。刺せば全てが終わるのだ…… 刺せば……。
私は布団の上に小刀を落としてしまった。そして、その場に座り込み号泣した。
「刺せませぬ…… 憎い仇とは分かってはいるのですが刺せませぬ…… 憎いのです八つ裂きにしたいぐらいに憎いのです…… それでもあなたのことが大好きだと言う気持ちも変わりませぬ」
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