おじいちゃん

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祖父が亡くなり実家に行くことになった。私だけ大事な部活の試合があり少し遅れて行くことになった。私は電車に乗り込みボックスシートの四人掛けの向かい合わせ式になっている座席に座る。窓の外を見て、祖父との思い出を思い出す。祖父は口癖のように名言を言っていた。かといっても人の名言を祖父は自分のもののように言うのだ。その度に私は「それどっかで聞いたことあるんだけど」と笑いながらツッコミをいれる。そんな思い出に浸っていると、うつらうつらと眠ってしまった。 大きな揺れが来て目が覚めた。なんだか寝心地が、いや。乗り心地が悪くなっている気がする。目をゆっくり開けると窓の外には乗っている電車から煙が出ていることに気づいた。独特な油とホコリの混じったような匂いがする。外の景色は変わってないが車内は確実に変わっている。窓に閉め金具が付いているので、ためしに窓を開けてみると気持ちいい風がそよそよと吹いて私の髪を撫でる。 甲高い汽笛の音が十秒ほど鳴った。車内がトンネルに吸い込まれると煙が入ってくるのに気づき急いで窓を閉めようとした。 そのとき後ろから筋肉質な腕が伸びゴツゴツとした手で窓を閉める。 「観光かい?」筋肉質で実に男らしい男性から声を掛けられ私は戸惑いながらも「祖父が亡くなってしまって」と答えた。するとワックスでテカテカになったリーゼントをこちらに向け座り「好きだったのかい?」と男性は続けて質問した。この質問には戸惑うことなく頷いて答えた。「はい」 「……誰かに愛されると記憶になり、記憶が宝になるんだよ、わかるかい?」 それを聞いた私は自然と笑みをこぼした。「なんとなくわかります、聞いたことある言葉だし」 「へへ、だったらよお。そのじいさんの優しさ、温かさはあんたの中に受け継がれるってことよ。べっぴんさんいたから話しかけちまった」 男性の笑顔と口調でハッとなった。もしかしてあなたは、いやまさか。 ――じいちゃん。 トンネルを抜けると視界が光に包まれた。目の前に男性はいなかった。 電車は実家から一番近い無人駅で止まり私は降りた。母にもうすぐ着くことを電話で伝えると返事だけで悲哀に満ちているのがわかった。私は相槌を打つ。 「雲の向こうはいつでも青空だよ」 私は微笑みながらもう少しで着くことを伝えると実家に向かった。石炭で薄汚れて黒くなった顔と右手を左手でのごりながら。
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