残月

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 気をきかせた帝雀が二部屋を取ったので、とにかくは二手に分かれて休むことにした。後はお前が判断しろというようにして帝雀らが隣りの部屋へと引っ込んだ様子に、遼玄はくしゃりと瞳を細めた。 ◇    ◇    ◇  紫燕らしき男と二人っきりになった部屋で、遼玄は言葉を探していた。  何を話したらいいのだろう――あんなに追い求めたはずの男が目の前にいるというのに、何故だろう、気のきいた台詞のひとつも浮かんでこない。それは男の方も同じようで、二人はしばし距離を取ったまま互いの様子を窺っていた。  遼玄は部屋の隅に置かれた茶卓の脇に腰掛けて行燈の仄暗い灯りに視線をやっているだけだ。対する男の方は窓枠に軽くもたれながら、障子越しに外を垣間見るような素振りを続けていた。 「なあ、あんたさ……喧嘩強えんだな」  最初に口を開いたのは男の方だった。遼玄は驚いたように瞳を見開くと、窓枠に寄り掛かる彼の方を見つめた。 「けど……どうしてくれんのー? 俺、仕事失くして食いっぱぐれちまうじゃねーのよ」  あんたのせいだぜ、というようにジットリとした流し目でこちらを見やり、そうされてしどろもどろになっている様子に可笑しそうに口元をほころばせる。 「嘘だよ、冗談。ま、もうあの賭場でサイコロ振るのは無理だろうけどさ、あんたらが来なくても遅かれ早かれこうなってた……」
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