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残月
紫燕がいた街よりは幾分小規模なものの、割合賑やかな隣り街でとりあえずの宿を見つけたのは、夜半もとうに過ぎた頃だった。
天心に昇った月が早い雲間から神々しく見え隠れしている、そんな夜だ。
遼玄らは一先ず、賭場を荒らした理由を紫燕らしき男に説明すると、乱闘騒ぎを起こしてしまったことに対して詫びの言葉を口にした。昼間に偶然、飯屋で居合わせた連中がよからぬ談義をかもしていたのが気になって賭場へと足を運んでみたのだと、分かりやすく真摯な態度で説明するのは帝雀の役どころだ。それらを割合落ち着いた様子で受け止める賽振りの男はやはり紫燕なのだろうか、見れば見るほどそっくりな顔立ちに、思わず『お前、紫燕だろ』などと問いただしたくなる。
だがそんなことを言ったところで彼には一切の記憶がないのは知れていることなのだから、どうにもやるせなかった。しかも夜半をすっかり過ぎているこの時分だ。そろそろ休むべきが賢明だろう。
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