トイレ

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速度を落とす事なくトイレへと歩みを進める。 この時の俺は無表情である。 誰もいない自分の家なのにも関わらず、表情を変える暇もない。というかやばい。 この時のさらに3秒経過している。 そして遂にトイレのドアノブに手を伸ばし、扉を開けた。 そこは緑の草木が生い茂る自然の森だった。 「いやいやいやいや」 慌てて扉を閉めた。 そしてもう一度扉を開けた。 さっきと同じ木漏れ日がとても綺麗な森だ。 だが今はそれどころではない。 俺は今、窮地に立たされている。 なぜトイレが森になっているのかという思考はどうでも良かった。 ただただ出したいだけだったのだ。 もう選択肢などなかった。一択だった。 俺は入り口前に置いてあったトイレットペーパーを鷲掴むとそのまま森へと走り出した。 そう、今の俺に躊躇なんて微塵もない。 一歩踏み出す。 扉の向こうは本当に森だった。 木漏れ日と共に葉がなびき、擦れる音。 小鳥の囀りも聞こえて来る。 だが、今の俺には何も感じない。 そして俺は程よい高さの草むらへと入り、ベルトを緩めてしゃがみ込んだ。 発射態勢である。 「…っ!」 力むとほんの数秒で発射した。 音も凄まじかったのか、びっくりしたであろう多くの小鳥が飛び立っていったのが見えた。 それと共にお腹の張りと痛みが引いて行く。 俺は救われたのだ。
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