トイレ

2/12
前へ
/17ページ
次へ
速度を落とす事なくトイレへと歩みを進める。 この時の俺は無表情である。 誰もいない自分の家なのにも関わらず、表情を変える暇もない。というかやばい。 この時のさらに3秒経過している。 そして遂にトイレのドアノブに手を伸ばし、扉を開けた。 そこは緑の草木が生い茂る自然の森だった。 「いやいやいやいや」 慌てて扉を閉めた。 そしてもう一度扉を開けた。 さっきと同じ木漏れ日がとても綺麗な森だ。 だが今はそれどころではない。 俺は今、窮地に立たされている。 なぜトイレが森になっているのかという思考はどうでも良かった。 ただただ出したいだけだったのだ。 もう選択肢などなかった。一択だった。 俺は入り口前に置いてあったトイレットペーパーを鷲掴むとそのまま森へと走り出した。 そう、今の俺に躊躇なんて微塵もない。 一歩踏み出す。 扉の向こうは本当に森だった。 木漏れ日と共に葉がなびき、擦れる音。 小鳥の囀りも聞こえて来る。 だが、今の俺には何も感じない。 そして俺は程よい高さの草むらへと入り、ベルトを緩めてしゃがみ込んだ。 発射態勢である。 「…っ!」 力むとほんの数秒で発射した。 音も凄まじかったのか、びっくりしたであろう多くの小鳥が飛び立っていったのが見えた。 それと共にお腹の張りと痛みが引いて行く。 俺は救われたのだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加