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「ぼくが抑えている隙に、こいつの上顎と下顎を引き裂け!」
少年の怒号に、怪物が怯んだような様子を見せた。
「そうすればこいつは暫く、きみを襲えない!」
下になった化け物が、威嚇するかのように咆哮する。空気が震えた。
瞳孔の無い、この世のものではない異次元の形相。
その凄まじさに、思わずH美さんは顔を背けた。
「出来ない、そんなの出来っこない…!」
部屋の隅で丸くなり、両手で頭を抱え込む。
出来る訳がない。あんな人外のものに、触れる事すら悍ましい。
化け物女将は勝ち誇ったように唸り声を張り上げ、髪を振り乱しながら蛇の様にうねり、凄まじい力で少年を下から持ち上げる。
「早くしろ!もう幾らも持たない!」
必死の形相で少年が叫ぶ。
「いや!いや!絶対無理…!」
H美さんは悲鳴を上げて泣き喚いた。
少年の身体がじりじりとせり上がる。ちっくしょうと歯噛みする少年。化け物女将が彼女の方を見て、勝ち誇ったようにせせら笑う。
私、この化け物に食われる、
殺される―。
そんな考えが走馬灯の様に脳裏を過った時。
―うわああぁぁぁぁぁぁぁ…!
悲鳴を上げながら立ち上がったH美さんは、化け物女将の側に駆け寄って、その上顎と下顎に両手を掛けると、渾身の力を込め、全身の体重を掛けて押し開いた。
ごきり、と骨の砕ける手応え。
ぶちぶちと、腱の裂ける音。
女将の凄まじい絶叫が、あたり一面に響き渡った―。
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