夢の中より現ずるもの

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「…明け方、寝室から聞こえて来た悲鳴を聞いて、両親が駆け付けると、私はベッドの中で狂乱状態になっていて「いつものだ!」と悟った両親は、恐慌状態の私を車に押し込めると、馴染みの、お祓いを頼んでいたお寺に運び込んだそうです。場慣れしているそこの住職さんも、状態をひと目見るなり顔を歪めて、すぐにお祓いを施してくれたそうです…」 肩を震わせながら、H美さんは、話をそう締め括った。 彼女の表情は蒼褪め、つい先程までの気丈さが見事に消え失せている。 そのH美さんの縋るような視線に、私は言葉を失っていた。単なる「夢」の話と、多寡を括り過ぎていたのである。 余りにも生々しく衝撃的な話だった。それは本当に「夢」なのだろうか? 明晰夢という言葉がある。 名前の通り、自分で夢であると自覚しながら見ている夢のことである。悪夢を自分の望む内容に変えたり、思い描いた通りのことを覚醒時に鮮明に記憶している事が特徴的とも言われていて、私にも経験がある。だが、その記憶も年月の経過と共に徐々に薄れて行く。しかし、彼女の語った悪夢は、二十年以上経過した現在でも、その細部の描写が異常なまでに鮮明なのだ。 「籠さん、どう思われますか、このお話…」 唇を震わせながら、H美さんは呟いた。 「単なる「夢」と思われるかも知れません。ただ、私の手には、あの化け物女将の顎を引き裂いた時の、腱の千切れる手応えや、骨の砕ける感触が今でも残っているんです。見て下さい…」
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