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差し出された彼女の右腕には、一面に鳥肌が浮き出している。
「あの「夢」を思い出すと、絶対、こうなるんです…」
なかなか、返す言葉が浮かんで来ない。
「夢」の話と言う事だったが、締めの部分でそれは現実とリンクしている。実際に、彼女にお祓いを施していた住職は、ひと目見るなり尋常な出来事ではないと看破しているではないか。そして、もうひとつ、私の胸中に湧き上がっていた「違和感」、それはこの話自体に、此れまで採話していた心霊体験談とは一線を画した、恐ろしく肌触りの違うものを感じたからである。
自殺者の多いマンション。
孤独死のあった部屋。
人影のちらつく廃病院。
心霊スポットでおかしくなった知己や友人。
やたらと事故の多い交差点。
先祖の因業の祟りに悩まされる一族。
この話は、それらのどこにも分類されない。
異談というカテゴリに属するには間違いないのだが、その怪異の根本的な「原因」は、何に起因すると言うのだろうか。
その時、ふと、ある考えが脳裏を過った。
彼女の夢に出て来た化け物女将、そして少年の正体ともに、まったく見当が付かない。ただ、そんな話を聞いた事がある。しかし、それは直接耳にした話ではなく、あくまで伝承上の中のものだ。
霊力の強い人間を喰らって、己自身の力を強めようとする忌まわしき存在。
そんなものを、この現実のど真ん中で、軽々しく肯定してしまって良いものなのか、私は言葉に詰まった。
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