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単純に笑い飛ばして「ただの夢だと思いますよ」と否定してしまう手も、有りだとは思った。ただ、それをすれば、先に提供してもらった話全てを否定するのと変わらない。
私は採話者と同時に体験者でもある。
話を頭から否定して来る輩には「やっぱりね…」という感情しか持ち合わせない。だから、そのような態度を取れば、H美さんも心の中で、私と言う人間に対して失望を感じるのは目に見えている。
彼女はこちらを信頼したからこそ、この話を打ち明けた。
こちら側としても、誠心誠意を用いて応じなければならない。テーブルの上の冷めたコーヒーの入ったカップを眺めながら、私は慎重に言葉を選んだ。
「打ち明けて戴けた事を感謝いたします。どう返して宜しいのかは判りませんし、あくまで「夢」が前提である以上、実話怪談としては不完全かなと考えてはいます。ただ、そのようなお話は、まったく聞いた事がない訳ではありません。だから、もしかするとという前提で答えさせて戴ければ…」
「もしかすると?それは?」
「それは…」
私の唇が、忌まわしい言葉を紡ぎ掛けた、まさにその時だった。
どずうぅぅぅん。
鈍い音と、振動する空気が私達の座るボックス席を震わせた。
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