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怪異とは、人気のない真夜中に起こるものでは無かったのだろうか。
この様な、大勢の人間で賑わう場所で、白昼堂々起こるべきものなのだろうか。
「い、今の、何ですか…?」
H美さんが絞り出すように声を出した。
答えられる訳などない。予想外の展開に、思考が停止していたからだ。
しかも私が、あの忌まわしい「単語」を口にしようとした、その瞬間に。
まさか、と思った。
有り得ないだろうとも思った。そして何でも関連付けて考えてしまうのは危険だとも考えた。
恐らく、どこかの子が、親に連れられてはしゃぎ過ぎ、たまたま私達の座る席目掛けてふざけたに違いない。そのタイミングが余りにも良過ぎたのだ。
何でも出来事を、上手に関連付けてしまうのはいけない事だ―。
「いや…」
私は仕切り直す様に平静を装って言葉を濁した。
その態度に安心した様子で、彼女は先程の質問を、もう一度繰り返した。
「…で…籠さん、先ほどは何を言い掛けたんですか…?」
「それは…」
H美さんの視線が泳いだ。左側に気配が走る。
反射的に振り返ると、私のすぐ傍に、ガラスに貼り付いていた少女が立っていた。
可愛いフリルの付いたワンピースに、肩まで掛るセミロングの髪。整った目鼻立ちは、あどけないながらも、少女に利発な印象を漂わせる。
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