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だが、いただけないのはその口元に刻まれた、厭らしい笑みだ。
私と目が合うと、少女は小首を傾げながら、一語一語をしっかりと区切り、まるで言い含めるかの様に、こう囁いた。
「い・る・よ」
全身に鳥肌が立った。
凍り付く私とH美さんを尻目に、少女は微笑むと身を翻し、店内の雑踏に紛れて消えた。
何という事なのだのだろう。相手から直に「念押し」をされたのだ。恐らく、こんな話は誰も信用しない。悪夢の住人が直接現れて、その存在を誇示して行った話など…。
「H美さん、あなたの見られたその「夢」、恐らく実体験です…」
覚悟を決めて、私は彼女に告げた。
「たった今「夢」の張本人に念押しをされました。先程、私が口にしようとしたのは…「魔物」という言葉なんです…」
「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」
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