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王はセプトをチラッと見やるが気づいてないかのように振る舞うと、ディーンにも知らんふりをするように目で訴えた。
「ではこれより、盗賊ジンの処刑を行う。彼の者は王城に忍び込み、国宝である竜珠を盗んだ罪により、死罪が宣告された」
観衆がどよめく。
竜珠とはおとぎ話でも有名で、竜の王が持つ森羅万象を司り、天候や地形を変化させることのできるとされる宝珠である。
「俺は盗んでなんかない!」
ジンが精一杯叫び訴えるが興奮状態の民衆は聞く耳など持っていない。
「勇者の仲間だからと信じたのが間違いであった。義賊と名乗っていても所詮は人の物を盗む輩よ」
王が処刑人に合図を送ろうと右手を上げる。しかし居ても立ってもいられなくなったセプトが壇上に登る。
「これはこれは勇者セプト殿」
「お久しぶりですね、王様。ジンの件、何かの間違いではないでしょうか?」
「かつての仲間だからと庇い立てするのですかな?」
「ええ。彼がそんなことするはずがないと信じています」
「しかし、彼の家から竜珠が出てきたのは事実。確たる証拠ではないか」
「魔王討伐の褒美にもらった財宝に入っていたと聞き及んでますが」
「目録には書いていなかったであろう」
「書き忘れたか、誤って渡した可能性もあるでしょう。ディーン、君からも説得してくれ」
どうあっても聞き入れない王との水掛け論。セプトはディーンにも仲間の弁護をするよう話を向けた。
「…………」
だが、ディーンは黙して語らず。目を閉じ何も見聞きできぬといった素振りである。
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