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神聖に輝く勇者の剣が天高く掲げられる。
世界の希望を一心に集めた一撃が、あらゆる邪悪の根源たる魔王に振り下ろされた。
長い道のりであった。
多くの人々の願いを聞き入れ、ある時は魔物を討伐し、またある時は行方知れずの者を探し、民の生活のために様々な草花や鉱石、動物や魔物の遺体などを集めたり。
望みを果たせずに落胆したり、強敵との戦いで仲間を失ったり、自らも大怪我を負うなどの苦闘。
道無き道、険しい山岳、真っ暗闇の洞窟を踏破し、食べることすらままならぬなどの苦難をなんとか乗り越え……
その全てが、世界の人々に訪れる平和とともに報われる時が来ると思うと自然に涙がこぼれ落ちる。
「ふふ、いい気なものだ」
虫の息の魔王が、息も絶え絶えに勇者に語りかけた。
「世界の、人々の夢や希望を背負ってきたのだから喜びもひとしおであろう。だがな……」
魔王の声が徐々に弱まる。遠くを見つめる視線、小さくなっていく呼吸。
「……束の間の平和を謳歌するがよかろう」
何かを伝えようとももはや声にならず、そのまま魔王は息絶えた。
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