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第一章 醒
(少し、ゆっくりめに読んでね)
ときおり、波のようにやってくる頭の痛みが、次郎の夢の邪魔をした。
胸の鼓動とともに、痛みのかたまりが首のうしろを無理矢理とおって、頭の芯に圧し込まれてくる。脈打ちながらこめかみを膨らませ、目の底に重く沈み込む。そのたびに夢の心地は断ち切られて、まぶたを閉じたまま次郎は眉間にしわをよせた。
なんの夢だったろう。
夢はいつも、あとあじだけを残して消えてゆく。かろうじてとどまっている余韻を頼りに、失せようとする夢を夢のなかでたぐりよせる。急くこころをなだめながらも、おもいだせないもどかしさ。遠くに残る切ない気持ちを、逃すまいとすがりつく。
なんの夢だったか。炎、珊瑚礁、松の林、薩摩船……。
つながりのない物事が、次から次へとこころのなかを駆けめぐる。なにか、白くてまぶしい夢だった。太陽、月桃の花、潮の匂い……。
海。
そうだ、鶴(チル)がいた。そうだそうだ、鶴と一緒に砂浜にいる、あの夢だった。
ひとたびおもいだしてみれば、忘れかけていたことがもう嘘のように、夢はありありとよみがえってきた。
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