第一章 醒

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るだろと、ツンと飛び出た山羊の足のよなちょっと頼りない枝につかまり、ゆさぶってみてはなかなかどうしてしっかりしてるのを確かめて、それで腰を落としてえいっと跳ねたら足はとたんに空を踏んで、ひいっと息を呑み込んで……、ひいっと息を呑み込んで……。  ひいっと息を呑み込んだ。  ところ。  まで。  ひゅるるるっと。  空が縮まってゆくのを見た記憶は、ある。  枝が裂ける音も、聞いた。ありありありっと叫んだ男の声も耳に残っている。  そのあとを、まったくおぼえていなかった。  落ちたのか、あの松の木から落ちたのか。  何度か記憶をあらためてみたが、やはりそのようだった。  それでこんなにあちらこちらと痛いのか、でもなんでこんなところにひとりで寝ている、どこだここはこの暗闇は、鶴はどうしたみんなはどうした。 「おうい、あががが。誰がな、助しきて呉れえ。動からんどぉ。あっかっか」  胸が痛んで叫べない。動かない足を放りだして坐ったまま、次郎はかんがえた。あれから、もうだいぶたっているような気がする。だが、もしかするとちがうかもしれぬ。  子どものころ、一度気を失ったことがあった。     
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