第一章 醒

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 到底かなわぬとおもいながらあきらめきれずにいた。幼いころから好きだった鶴に、ようやくこころを決めて想いを告げた、あのときの、あの夢だった。こころもちがすっとした。甘い夢をまた反芻できるうれしさに、次郎は目をつむったままほほ笑んだ。  砂浜のゆるい丘の上に、鶴とならんで坐っている。はしゃぎ疲れてあとのゆったりとした風がふたりをとおり過ぎて、海のおもてを輝かせて撫で渡ってゆく。慶良間の島々が遠く霞む水平線のあたりから、空はその青さをだんだんと濃くしながら、ふたりにおおいかぶさってくる。  北へむかう薩摩船の帆が、もうだいぶ小さくなった。  次郎はその場であおむけに寝ころんだ。  背中の砂が温かい。太陽がまぶしい。手のひらをかざして、指の端からとなりに坐る鶴の背中を、そっとのぞき見た。  白いうなじに鬢のおくれ毛が風にそよぎ、耳たぶが陽の光に透けて、月桃のつぼみのように見えた。 「鶴よ」  次郎の声に、鶴は一瞬、肩を震わせただけでみじろぎもせず、少ししてから静かにこたえた。 「何やいびーが?」(何でしょう)  ここちよい鶴の澄んだ声が、今日はこころに刺さるよう。砂に挿してある阿檀の葉で編んだ風車が、ときどきクルクルとまわっては、止まった。  鶴が待っているのが、わかる。わかるけどいいだせない。もうのど元までその言葉は出かかっているのに、いおうとしたとたんに胸がぎゅっと苦しくなって、なんだか哀しくなる。     
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