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鶴はゆっくりと顔をあげて目をあわせ、 少し悲しげな笑みを見せてから、今度は深々とうなずいた。
「鶴!」
抱きしめた鶴のこわばった肩からちからが抜けて、それから長いあいだ口づけた。あまくやわらかな鶴の唇。いったん離した唇をもう一度あわせて鶴を大事に抱きしめたとき、また、頭に痛みが寄せてきた。
胸の鼓動とともに、疼くような痛みがだんだん大きく膨れあがって、続けざまに頭を殴りつけてくる。息ができない。鶴が唇を離さない。苦しさに顔が熱くなる。棒で殴られたような激しい痛みが頭を走り、閉じていた目をカッと大きく見開いて、次郎はとうとう甘い夢から醒めた。
真っ暗闇だった。
息ができない。気がつくと、舌がのどの奥で上あごに貼り着いたようになっていて、息を吸うも吐くもできない。あおむけのままの体は動かず、息を吸おうとしても、のどがググと小さく鳴るだけである。あわてて首を縮めたり伸ばしたり、顔をしかめたりしたあげく、両のほおにちからを込めておもいっ切り口を開くと、ポンと抜ける音がして、ようやく舌がはずれた。岩穴の蛸を引きずり出して、やっと海面へ飛び出したときのように、鼻と口からありったけの空気を吸い込んだ。
あっがあ! (痛てぇ)
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