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となりに寝ているはずの鶴をよぶ。が、声が出ない。首のうしろからまた痛みの波が寄せてきた。波が大きくなるにつれ、その間あいは短くなって、頭のなかで痛みがうねって脈を打つ。岩礁に散る波のように、最後に大きく砕けて頭の底にゆっくり沈んでいく。
(あががが。鶴よ、居らんな?)
やっと見つけた両手の指が、腹の上でからみあってはずれない。肘の痛みをううとこらえて両腕を引っ張った。指がほどけて、両の腕がだらりと腹の上から落ちた。
動かぬ腕の先にある手のひらを、開いては閉じてする。痛みに唸りながら手首をゆっくりとまわすと、やがて指先がじんじんとしはじめて、わきの下から手のひらへと、温かいものが流れてゆくのが感じられた。
それでもまだ粘土のように重たい腕を、よろよろと地面を転がすようにして横に伸ばし、鶴をさがした。いつも鶴が寝ているそこには、ただ冷んやりとした感触だけがある。
少し湿っていた。
どうやら土のようである。
あおむけのまま、暗闇のなか腕だけ伸ばしてあたりを探る。右も左も土ばかりでまわりにはなにもない。ただ、体の下にだけムシロの感触があって、自分はその上に寝ているのだ、ということだけがわかった。
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