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口の奥にいくらか酒の臭いがする、酔って土間ででも寝てしまったか。いや、それを鶴が放ったらかしておくはずがない。確かに酒は飲んだようなおぼえがある。なんだか楽しかったような気分も残っている。が、頭がぼおっとしておもいだせない。どのくらい寝ていたのか。時の感覚は失せていた。
体の硬直がほどけるにつれて、かえって腰や背骨の痛みがひどくなってきた。
「鶴は居らに? おうい、誰がな居らんな?」
ようやく言葉らしくには聞こえたが、細くしゃがれた自分の声は暗闇に吸い込まれてすぐ消える。
おぼつかない腕をうしろ手に突っ張って、どうにか半身だけを起こした。まだひどく酔っているように頭がぐらぐらした。
揺れる体を両腕でつっかえ棒のようにしてささえ、あたりを左見右見してはみるも、やはり暗闇のなかである。
腰から下に感覚が薄い。足をさがした。膝をそろえて立てたまま、麻痺したように触れるのも感じられない自分の足があった。たたいてはもみほぐし、曲がった膝を手で押すようにして、痛みをつらぬいてふたつの足を伸ばした。
左胸の下あたりにも違和感がある。そっと触れると激痛が走った。あばらが折れているんじゃないか。左の腰や肩もたまらなく痛い。尋常ではない。体が動かない、おもうように口もきけぬ、まさか、よいよいでも患ったのではあるまいな。
なにがあったか。朦朧としてよくまわらない頭で、よどんだ記憶を次郎は懸命にまさぐった。
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