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そうだそうだ那覇の港に御冠船がやって来て、山のように大きな船が、それも二隻も来ているのだと、もう何十年ぶりのことなのだと、首里天加那志(すいてぃんがなし 琉球国王)も来られるのだと、これはめでたい縁起がいいと、行こう行こうとみんなそろって飛び出したんだ。村のみんなは朝の早くから船を曳っぱれとよびあつめられてんやわんやで出てったらしいが、いまさらいらんとおじぃがいうからせわしく山へ駆け登ったが樹々が邪魔してなんにも見えず、鶴の手を引きふうふうしながらゆっくり急いで港へむかえば、次第に人はどんどん増えて、普門地を過ぎたあたりからもう、それはそれはの見物人が押すな押すなとひしめきあって、首里のお城が燃えたときよりも見たこともない人山で、失態、やっぱり舟がよかったと気づいたときにはもう動けなくて、人ごみのなかを泳ぐようにかき分け押し分け進んでいって。
そうそう、祭りがみっつもよっつも一度にやってきたかのように、遠くで鉦や太鼓の音がチンドン鳴るのが聞こえはじめて、急きたつこころに大砲の音がどんどんどんと響き渡ってみなのどよめきが広がって、ようやく頭の海の遠くに帆柱の先の黄色い旗がひらひら風になびいて見えて、もひとつの船は難破したのか旗もあげずに傷んで見えて、すぐのそこまで来てはいるのに伸びても跳ねても目にはいるのは野次馬どもの頭ばかりで、高見をしようとさがしてみたらむこうに大きな平松が見えて、あれだあれだと鶴をすかしつやっとこ根元にたどり着いたら、得意顔した連中がすでに四人五人と登っておって、負けじと着物の裾たくしあげて徳と照の肩借りて、あぶあぶ顔したその二才たちを鼻で嗤って追い越して、危ないからと鶴が止めたが、ぬーあらんさ(なんでもない)と家の屋根より高くに登って、それでも遠くに赤や黄色の百足の幟が見えてるだけで、も少し登ればもう見え
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