再生の断片

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葉と葉が擦れ合う音は稲穂同士のおしゃべりのようで、喫茶店で流れていたシンバルの音を思い出した。細かに刻まれるささやかで鋭い音は、すっかりみきの耳に馴染んでいる。  畦道を抜ける間、空は明るいのに雨が降ってきた。降り注ぐ雫を受けた稲穂や草花は太陽の光を反射する。静寂は雨の音そのもので、みきの足音も含めて全ての音を吸い込んでしまう。隠れていた太陽が完全に姿を現すと、何事もなかったかのように雨が止んだ。ちょうどとりわけ低い雲がみきの真上の空を滑っていき、日向と日影の境目が一面の田んぼを切り分けるようにスライドしていく。日向は影に、日影は日向に切り替わり、みきの体も同じように照らし出される。目の前の、田んぼの間を一直線に伸びる畦道が白く光り、ぎゅっと目を瞑った。恐々と瞼を上げると、道の先を黙々と歩いていく背中が見える。再び駆けだすと同時に鳥の群れが紙吹雪をまき散らすように空を横断していく。微かな羽音に耳を澄ませる。  青々とした稲の先端に残る水滴は透明な石のようで、風が吹くたびごくささやかな雨を散らせる。普段、学校へ行く道も、帰ってくる道も見たことのない景色があったのかもしれない。本を開くと、別世界が目の前に開けるように、自分の踏みしめている道はまだ未知の存在があるのかもしれない。気がつくと目の前の道が二手に分かれていた。みきは驚いて立ち止まり、きょろきょろと辺りを見回した。誰もいない。  心細くなったとき、こっちよ、と囁きが聞こえた。風に溶け込むような声に導かれるように、あるいは見えない手に背を押されるように、迷っていた足が一歩前へ出る。足の裏が、地面をしっかりととらえた感触がした。目をこらすと山の麓に触れそうなほど遠くに黒い人影が見えた。息を切らして走り出すと、男は神社へ入っていく。息を切らせて鳥居をくぐり、賽銭箱とお堂の横をすり抜ける。  そこには蓮の花が浮かぶ池があった。夜が映り込む水面は黒々として澄んでいた。覗き込むと鏡のように自分の顔が映り込む。さざ波が緩やかに立ち上がり、みきの顔も一緒に揺らいだ。ひざを折ってかがみ込むと、水と植物の混ざった匂いがした。鼻先が水面にぶつかっても不思議と怖さはなかった。飛び込んだ衝撃で無数の泡が天へ上っていく。水面の裏側からは蓮の花から伸びる茎が蜘蛛の糸のように垂れている。
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