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本当は一人に寄ってたかって嫌がらせをするような冷酷な奴なのに。
みきは足早に席へ向かった。隣の席との間が他と比べて広いのですぐに分かる。関わりたくないというクラス全体の無言の意思に、体が注射をされる直前みたいになり、唇を堅く引き結んだ。気づいているのかいないのか、先生が声をかけてくることはないことはこの一ヶ月で理解していた。何故自分なのかみきには分からなかった。ただ、以前他クラスで同じようなことがあったという噂を聞いた。そのクラスでは生徒が一人、学期の途中から学校に来なくなった。
みきは学校を休まない。隣の市の、私立中学の教壇に立つ父は厳格だ。不登校になる娘の存在など決して許さないだろう。娘が「学校へ行きたくない」などと言い出したらどうなるかわかったものではない。
もし、みきが不登校になったら。担任は父が教師であること、それもここのような公立ではなく私立に勤めていることで父や母に対して低姿勢になるのではないだろうか。
もし、担任がみきへのいじめをやめさせるようにクラスに呼びかけたら。みきの父親が教師という「権威」であるからやめろと言うのではないか。そんなことになればこのクラスは父のこともからかいの的にして、自分と父二人分の嫌がらせを受けることになるかもしれないのだ。みきはクラスで孤立するよりもその方が怖かった。
父を誇りに思っていれば、それを心の支えにして嫌がらせに対して立ち向かえたかもしれない。しかし、みきはいじめを受けている自分に対する父の反応を見るのがただ恐ろしかった。父から何か非難めいた言葉を投げつけられればそれは、自分の居場所が根こそぎ奪われたことを意味する。今だって危ういのだ。少し前、算数の割り算が解けず、学校で居残り学習を受けさせられたことがあった。その日の夜、解いてみろと言われた割り算の問題を解くことができないみきに対して、父はものを投げつけた。額に当たったティッシュ箱の硬さはまだ覚えている。母は、みきが額を押さえるのを見ても黙っていた。こんな娘がクラスで孤立し、親へ連絡が行こうものなら今度は一体どんな罰が待っているか分かったものではない。きっといじめにあうということは割り算が周りと同じように理解ができず、同じくらいの速さで解くこともできないことと関係しているに違いない。
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