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私にとって「結婚」は、「アボガドロ定数」と同じくらいピンと来ない言葉。
両親は離婚してるうえ、おばあちゃんもおじいちゃんと離婚することにしたらしい。
只今、弁護士を通して協議中。夏休みに遊びに行くのも憚られる状況。
将来に「結婚」を持ち込む唯香に、危うさを感じる一方、特段の夢のない自分は、スリルさえない。
(小さい頃は、夢、あったなあ)
それは、探検家。
でもなり方が分からない。お金は……クラウドファンディングとか? 年金なんてないだろうから老いた時、困るし。
本音は明日のことだけ考えていたい。
探検家になる、なんて言ったら、きっと質問の応酬になる。
そんなもの、何になるの?
年収低いよ?
結婚とかどうするの?
問い詰められたら、きっと何も答えられなくなってしまう。
頬を赤らめ「間違いでした」と二重線で消す羽目になるだけだ。
「ねえ、明日テスト終わったら水族館行こうよ! この前、パパが招待券くれたの」
「いいね」
唯香のお父さんは、たくさんのビジネスホテルを経営する会社の営業部長。
娘さんに、と取引先が様々なチケットをくれるのだそうだ。
「制服のままでいいよね?」
立ち止まって動けないままの私を嘲笑うように、また、夏が来た。
◇
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