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M邸の書斎(夏)
M邸の書斎には、この屋敷の主人が代々集めた珍品が飾られている。
今朝はそのうちのひとつ、ラピスラズリの巨石がテーブルに載せられており、
その傍らには、おしゃべりなフランス人形のモモとミミが寄り掛かっていた。
「はあーもう退屈。お嬢様が作るって言ってた新しいドレス、どうなっちゃったのかしら?」
モモがお手上げ、というように肩をすくめる。
「飽きっぽいもの、お嬢様は」
ミミも腕組みで目を閉じる。金髪の巻き毛を揺らして窓の外を眺めれば、夏の眩しい日差し。
「今朝は、この石を見て、青も素敵、って言ってたけど」
「だったら、ビーズのネックレスの方がいいな」
「ネックレス……ねえねえ、こんなお話はどう?」
「どんな話?」
「宝石店の男性が、一目ぼれした女の子に、ネックレスを手作りしてプレゼント」
「あーダメダメ! なにもかもバレバレ。二人が出会った瞬間にラストがわかっちゃう」
「いーじゃない。バレバレでも面白く味付けすればいいのよ。まずその出会いが偶然のような奇跡で、はじめは悪印象なの。でも、なんだか気になる存在になって、自分の背中を押してくれることを言ってくれて、偶然触れた指先にキュンとしちゃって」
「はいはい」
「で、強制的に会えない時間があって、ライバルが現れて、『なんであたし、アイツのことばっかり考えてるの!』みたいな」
「はいはいはいはい」
「そんで、なんか知らないけど、夕日のなか駆け出して、素直になって、告白して、相手が照れて」
「そんなわかりきった恋バナ、読みたい人いないでしょ?」
「それは、どうかなあ? 物好きもいるだろうから、考えてみようよ」
ラピスラズリの巨石は、二人の身体の倍ほどもある。すべらかに磨かれた石の感触を、自慢の白い指先で撫でながらおしゃべりは続いた。
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