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ぶっきらぼうにホームボタンを押した指先が震える。カラフルな画面に異物のように浮き出た真っ黒なアプリ。そこだけ画面が壊れたみたいだ。こんなもの入れた覚えはない。首筋から始まった悪寒が腰までじわりと侵食していった。
しばし停止していた脳を無理やり動かしネットを起動する。黒いアプリについての詳細を調べるが、自身に起こった現象に役立ちそうな情報はなかった。
この事は明日、噂好きの友達に聞くことにしよう。ウイルスかもしれないし。もう時間は一時になりそうだ。
彼女は手早く画面を変えると目覚ましをセットする。充電器を刺したスマホをいつもより遠くへ置くと頭までタオルケットを被った。
「え?なに、ここ」
異変に気付き辺りを見渡す。真っ白な壁、椅子が二つ。ほのかに感じる薬品の匂い。おそらく病院だろう。固く握られた手が白ずんでいく。
「夢……」
「まあそう言っても差し支えないね」
体が電撃を受けたかのように飛び跳ねた。痛いほど急激に胸を打つ鼓動。声の方角に目を走らせる。
それは、居た。
フランス人形だ。器用に球体関節を折り曲げ医者が座るような御立派な椅子に座っている。長い金髪に赤い洋服。吸い込まれそうなほどに透明な碧い目がこちらに向いていた。
胸の内で燻っていた恐怖が全身に燃え広がる。震えを止められない。踵を返し駆ける、だが。
「なんで……!?このっ!」
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