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ドアがない。一面すべて壁だ。空虚な無地の色が押し潰されそうなほど積み重なっている。叩いてもびくともしない。
「少しは落ち着いて欲しいな。そもそも君が話すのを望んでたんだよね?」
背中にかかるあいつの声。抑揚の乏しい口調。子供の声を質の悪いレコーダーで再生したみたいだ。美香は振り替えると壁に背中をベッタリと張り付ける。
「あ、あんた誰?」
「誰って、君は知ってるはずだよ」
爪先立ちになり体を壁にめり込ませるように押し付ける。頬から伝わる冷たい感触に美香の体がぶるりと震えた。
「や、やっぱり し、しに……」
彼女が絞り出した震える声を聞いてフランス人形はガクッと項垂れた。無表情のまま力なく垂れた頭はどこか哀愁を感じさせる。
「はいはい、そう、死神ね、君が話したがってた。君達は人を呼びつけておいて失礼な態度をとるよね」
少ない抑揚の中に非難の色が混じる。美香はゆっくりと背中を壁から離すと小さく一歩前に出た。
「だって、本当にいるとは……それに人を……その、こ、死なせたりするんでしょ?」
美香は慎重に言葉を選びながら人形の動きに神経を集中させた。滴となった汗が、顔にかかった髪を濡らす。
「君達は勘違いしてるけど、むやみやたらに殺したりしないよ、条件だってある。そろそろ座っておくれ、落ち着かない」
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