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「おいおい、気をつけておくれよ。それは"こっち"と"そっち"を繋ぐパイプみたいなものだからね」
スマホを拾うため屈んでいた彼女はぎょっとして身を固める。パイプ、それならもしこれが無くなればどうなる。部屋を照らす白い明かりが無機質な人形の肌を照らしだす。
「まあ、壊したりしても大丈夫だとは思うけどね"こっち"は本来人間が入れないはずだから追い出されるだけだと思うよ」
スマホを拾い上げた美香はそのまま床に座り込むと、長々と床に息を吐き出した。写し出される一人と一つの影、人形の方は動いている。顔を向けると死神は椅子から降りこちらに手を降っていた。
「それじゃ一旦お別れだ、やっぱり人間は長い時間ここにいられないね。また君が……」
フランス人形の姿は霧に、その声はノイズ混じりになっていく。
落ちてきたまぶたに気付く間もなく彼女は意識を手放した。
「まって!」
上体を跳ね上げ突き出された右手が空を切る。窓から差し込む光と鳥の声、すでに朝になっているみたいだ。
先ほどの記憶を反芻する。
見知らぬ部屋、突如現れた人形、告げられた正体。
雲のように実態を得なかった興奮が徐々に形作られ心を満たしていく。
時間を確かめようと彼女は充電器に刺さっているはずのスマホを探した。見当たらない。
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